難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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疾患各論1

難治性下痢症診断アルゴリズムの解説:
アルゴリズムに含まれる疾患の解説

10胆汁酸性下痢症

 胆汁酸は胆汁中に含まれ,脂質をミセル化することにより小腸,特に回腸後半部からの脂肪吸収を促すとともにコレステロールや脂溶性ビタミンの腸肝循環に寄与する.回腸後半部で吸収されずに大腸内に流入した胆汁酸は浸透圧負荷となるとともに,大腸粘膜細胞においてcAMPの生成とCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)の活性を刺激してClとH2Oの分泌を亢進させて水様下痢の原因となる.
 胆汁酸性下痢症には,回盲部切除術やクローン病などの回盲部病変による続発性胆汁酸再吸収障害と,原発性胆汁酸下痢症がある.続発性で留意すべき病態として,進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)I型の肝移植後の重症下痢がある.PFIC I型はFIC1遺伝子(ATP8b1)の変異に基づく疾患であり,この遺伝子産物である胆汁酸トランスポーターは肝臓では胆汁酸の分泌に寄与し,小腸では胆汁酸の吸収に寄与している.PFIC1に対して肝移植を行うと,グラフト肝で正常に排出されるようになった胆汁酸が小腸で吸収されずに大量に大腸に流入するため,著しい水様下痢をきたす.また,原発性胆汁酸吸収障害による先天性下痢症の原因として有機溶質トランスポーターβ(organic solute transporter-β)遺伝子(SLC51B)の異常が関与していることが明らかにされている.
 胆汁酸性下痢症に対する治療薬としては,腸管内における胆汁酸吸着薬であるコレスチミドが有効である.

参考文献

・中島 淳,大久保秀則:胆汁酸下痢のメカニズムから胆汁酸トランスポーター阻害薬を学ぶ.消化器病学サイエンス2019;3:87-89.

・大菅俊明:胆汁酸と疾病.腸内細菌学雑誌1998;11:69-73.

・ Egawa H, Yorifuji T, Sumazaki R, et al.: Intractable diarrhea after liver transplantation for Byler's disease: successful treatment with bile adsorptive resin. Liver Transpl 2002; 8: 714-716.

・ Liu Y, Sun L-Y, Zhu Z-J, et. al.: Liver Transplantation for Progressive Familial Intrahepatic Cholestasis. Ann Transplant 2018; 23: 666-673.

・ Sultan M, Rao A, Elpeleg O, et al.: Organic solute transporter-β(SLC51B) deficiency in two brothers with congenital diarrhea and features