難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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難治性下痢症診断アルゴリズムの解説

「乳幼児において2週間以上続く下痢」の診断アルゴリズムと特発性難治性下痢症の定義

 便の性状や回数は,新生児期から成長に伴って変化するが個人差も大きい.1日の回数や硬さや粘度などを客観的に規定して下痢を定義することは難しい.そのため,下痢とは,新生児期も含めてそれぞれの月齢・年齢において“標準より,あるいはいつもより便中の水分が多くなった状態”としか表すことができない.一方,下痢は便性の変化だけではなく,その原因により腹痛や腹部膨満,嘔吐などの症状のほか,脱水,電解質異常や吸収不全に伴う栄養障害など様々な症候をもたらし,特に乳幼児では下痢が遷延することによって成長発育が損なわれることにつながる.日常遭遇する下痢の多くは感染性胃腸炎による急性下痢であるが,感染症が関与しない下痢や,感染の急性期を過ぎても下痢が持続する慢性,あるいは遷延性下痢を呈するものがあり,その背景には様々な疾患が存在する.したがって,下痢の原因を病態別に把握してその背景にある疾患を鑑別することは重要である.
 1968年,Averyら1)は,①生後3か月未満の乳児において,②便培養陰性,③病因不明で,医療的介入を行っても2週間以上の下痢が遷延し,栄養障害・成長障害を伴う病態を“乳児難治性下痢症(intractable diarrhea of infancy)”と定義し,この用語が広く用いられてきたが,現在までに様々な下痢の原因疾患が解明されるとともに,診断技術や栄養療法が進歩してきた.
 ここでは,おおむね6歳ごろまでに発症するものを対象として「乳幼児において2週間以上続く下痢」を広く難治性下痢として,その背景疾患を鑑別するための診断アルゴリズムを作成した.さらに,このアルゴリズムに入らないいくつかの疾患を含めて鑑別の対象とし,これらのいずれにも該当しないものを「特発性難治性下痢症」とした.
 すなわち,特発性難治性下痢症とは,「便検査で原因となる病原体が検出されず,通常の治療を行っても下痢が遷延し,栄養や発育が損なわれ,明らかな原因が特定されないもの.しばしば経腸あるいは経静脈的な補助栄養管理を必要とする.」と定義される.
 以下に,乳幼児において2週間以上続く下痢の診断アルゴリズムを構成する各項目の解説を述べる.

文献

1)Avery GB, Villavicencio O, Lilly JR, et al.: Intractable diarrhea in early infancy. Pediatrics 1968; 41: 712-722.