難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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疾患各論1

難治性下痢症診断アルゴリズムの解説:
アルゴリズムに含まれる疾患の解説

腸炎後症候群(感染後腸症)

 乳幼児の急性下痢症の原因としてはウイルス感染症が多く,通常は数日で自然に軽快する.しかし,乳児期早期にロタウイルスなどの感染性胃腸炎を契機として3週間以上下痢が続く場合があり,そのような病態を感染後腸症(腸炎後症候群)(以下,本症)とよぶ.発症までに下痢がなく,臨床的に感染性胃腸炎の発症から連続して遷延性の下痢を呈した症例では,原因菌やウイルスが特定されない場合でも本症と診断する.
 本症の病態には,二次性乳糖(二糖類)不耐症や食物蛋白誘発性腸症が関与していると考えられる.消化管感染による小腸粘膜の損傷のため消化管粘膜防御機構が破綻し,牛乳蛋白など特定の食物抗原に対するアレルギー反応により,絨毛萎縮など小腸粘膜に形態学的変化を生じる.その結果,ラクトースなど二糖類の吸収不全が生じ,腸管内で高浸透圧性溶質となって浸透圧性下痢を惹起する.さらに消化管の蠕動亢進,栄養障害,腸管内糖質による細菌増殖,免疫能低下といった因子が複雑に絡み合い,悪循環に陥って治療抵抗性となり,下痢がさらに遷延する.
 また,感染性腸炎後には過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の発症率が約6~7倍増加することが知られており,IBS全体の5~25%を占めると推定される.感染性腸炎後IBSの危険因子としては,ストレス,うつ,身体化傾向,女性,リンパ球増多,クロム親和性細胞過形成,起炎菌のelongating toxin,感染性腸炎の持続期間の長さがあげられる.