難治性下痢症診断の手引き
-小児難治性下痢症診断アルゴリズムとその解説-

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疾患各論2

難治性下痢症診断アルゴリズムの解説:
アルゴリズムに含まれていない疾患の解説

代理ミュンヒハウゼン症候群(MSBP)

1)疾患概念

 子どもを病気に仕立ててしまう親(おもに母親)の精神疾患であり,児童虐待の一型として認識されている.各種の検査や適切な治療にもかかわらず,長期間に及ぶ不自然な下痢を呈する場合は,本疾患を疑って母子分離を試みる必要がある.診断が確定しない場合は不幸な転帰をとりうる疾患であることを十分に認識すべきである.

2)病因・病態

 代理ミュンヒハウゼン症候群(Münchausen syndrome by proxy:MSBP)の基本病因として,加害者自身にMünchausen syndromeもしくは虚偽性障害(factitious disorder)と診断される精神疾患があることが少なくない.加害者はほとんどの場合女性で,14~30%は医療関係者である.英国と米国からの事例報告が多いが,世界中から報告があり,特定の文化圏や社会的・医療的システムに限られる疾患ではない.

3)特徴

①身体的・心理的な徴候・症状,検査結果を意図的に偽装,または作出する.

②行動の動機は病児の献身的な養育者の役割を演じることにある.

③行動の外的動機(詐病のような経済的利得,法的責任の回避,または身体的健康の向上)を欠如している.

4)MSBPを疑う徴候

①医学的に不自然な病的状態が持続・または反復する.

②病歴,検査所見と児の状態に相違がある.

③経験ある臨床家に“今までみたことがない”稀な疾患を想定させる.

④親(養育者)が付き添っているときに症状が生じる.

⑤親が常に子どもから離れない.

⑥子どもはしばしば治療を受け入れることができない.

⑦子どもの病気に関して親の不安は,医療スタッフが危惧しているほどではない.

⑧適切な治療に反応しない.

⑨親と分離すると症状が落ち着く.

⑩家庭内に過去に説明できない乳児の突然死の既往がある.

5)診断の手順

①子どもの病歴を詳細にとり,今までその家族とかかわった医療・福祉・学校関係者から,各時点の症状と検査結果,被疑者の結果を説明したときの反応や態度を,直接会って確認する.

②直接,被疑者の口から今までの病歴を詳細に聴取する(できるだけ録音・録画をする).

③被疑者以外の家族と面会する.

④被疑者にMünchausen syndrome や原因不明の病歴がないか,被疑者の主治医と連絡をとる.

⑤MSBPが疑われたときは,院内虐待対応チーム,児童相談所,弁護士とともに法的介入ができる準備を行う.

⑥子どもを被疑者と分離して,最低でも3 週間,できれば6 週間,子どもを観察し,被疑者の訴える症状や問題行動の推移を確認する.

⑦MSBPの場合,子どもの異常行動や症状の背景に常に中毒を念頭におき,必要に応じ各種検体の保存を行う.

参考文献

・奥山眞紀子,山田不二子,溝口史剛:子ども虐待対応医師のための子ども虐待対応・医学診断ガイド.http://www.ncchd.go.jp/kokoro/medical/pdf/03_h20-22guide_3.pdf

・小川 厚:子どもを代理としたMunchausen症候群.小児科診療 2016;79(suppl.):134.