便秘ガイドライン〈医師・医療従事者〉

酸化マグネシウム製剤服用中の高マグネシウム血症に関する提言 −医療従事者の方へ−

2015年12月
小児慢性便秘症診療ガイドライン作成委員会

2015年10月、厚労省医薬・生活衛生局が、新たな副作用などが確認された医療用薬について、医療従事者に注意喚起するための添付文書改訂を求める通知を日本製薬団体連合会に指示したことが報道されました。この中で、酸化マグネシウム製剤の副作用である「高マグネシウム血症」について、高齢者に多く重篤になるケースも多いとして、慎重投与に高齢者を追記し、便秘症の患者では腎機能が正常な場合や通常用量以下の投与であっても、重篤な転帰をたどる例が報告されていることも追記するよう要望しました。医薬品医療機器総合機構(PMDA)に資料によると、2012年4月以降、本製剤との因果関係が否定できない高マグネシウム血症が19例報告され、このうち、1例は死亡事例でした。

これらの報道は、2008年、過去3年に酸化マグネシウム製剤服用との因果関係が否定できない死亡事例2例を含む高マグネシウム血症15例があったとの報告を受け、厚労省から、本薬剤投与により高マグネシウム血症があらわれることがあること、長期投与する場合には定期的に血清マグネシウム濃度を測定するなどを盛り込んだ添付文書の改訂指示が発令された案件と酷似しています。

前回2008年の報道と同様、この度の報道でも、酸化マグネシウム製剤と高マグネシウム血症発症との因果関係は明白になっていないまま発表されており、結果、医療関係者には疑問や不信感を、本薬剤を服用している患者さんやご家族には過度の不安や恐怖心を引き起こすこととなりました。私たち、小児慢性便秘症診療ガイドライン作成委員会では、専門家の意見や現時点でのできる限りの情報を集めて、本薬剤の小児における安全性について検討いたしました。その結果を正しくご理解いただき、診療のご参考にしていただけるよう、以下に報告いたします。

酸化マグネシウム製剤は、便秘や胃炎などに対して広く用いられており、国内では年間のべ4,500万件も処方されている医薬品です。小児の患者さんもその例外ではなく、小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインでも便秘症児に対する薬物療法のひとつとして、その使用が推奨されています(資料1)。

従来、酸化マグネシウム製剤の添付文書には、副作用の項に高マグネシウム血症が記載され注意喚起されています。特に腎不全などの病態における酸化マグネシウム製剤の処方に際しては、十分に高マグネシウム血症の発現に対する注意が払われていることは周知の通りです。しかし、今回の副作用の事例などを踏まえ、厚労省は、重要な基本的注意として、(本薬剤を)必要最小限の使用にとどめる旨、また、症状があらわれた場合には医療機関を受診するよう患者に指導する旨、添付文書の改訂を求めました(資料2、資料3)。

私たち、小児慢性便秘症診療ガイドライン作成委員会では、まず、今回報道のあった直近3年度の国内副作用症例の集積状況のうち、「高マグネシウム血症」の死亡事例4例について検証を行いました。特に、本薬剤服用との因果関係が否定できないとされている症例1例(資料4)では、入院時に敗血症の合併があったこと、また下血や多臓器不全をきたしショック状態にあったこと、他の基礎疾患の有無について不明であることなどから、酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症と結論付けるには、情報が不十分であると判断しました。この見解は、日本マグネシウム学会の専門家らと同様のもの(資料5)です。

次に、医薬品の副作用に関するデータベースを検索した結果、PMDAによる2004年4月以降の医薬品副作用報告数369,951件のうち、酸化マグネシウム製剤による高マグネシウム血症の報告は44件でした(2015年11月)。報告の大半が60歳代以上の高齢者であり、15歳未満の小児例の報告件数は0件でした(PMDAデータベースから検索)。マグネシウム製剤に関する高マグネシウム血症の小児例について、論文検索では、該当する英文誌が4編(参考資料)、うち2編がマグネシウム製剤に関する高マグネシウム血症の報告であり(PubMedにてhypermagnesemia、constipation、infant、child、adolescent、birth-18 yearsについて検索)、国内小児例に関する報告は、会議録を含めて見当たりませんでした(医中誌にて小児、高マグネシウム血症について検索)。英文誌に掲載されている1例は、水酸化マグネシウム投与による高マグネシウム血症であり、服薬量不明であり、腎障害がなく高マグネシウム血症にいたった経緯が不明です。もう1例は、基礎疾患、腎障害(Cr 2.2 mg/dL)のある症例に対して酸化マグネシウムを多量に投与した事例でした。 また、現在までに、私たち、小児慢性便秘症診療ガイドライン作成委員会のメンバーが、便秘症で酸化マグネシウム製剤を内服している患者さんの血清マグネシウム濃度を調べた結果では、基礎疾患のない患者さんでは、臨床的に問題になるような値はありませんでした。

一方、通常用量以下の酸化マグネシウム製剤を服用し、高マグネシウム血症にいたった1歳児例の報告も確認されました。症例は、便秘症に対して酸化マグネシウム製剤を数日間服用し、血中マグネシウム濃度の上昇(11.0 mg/dL)と意識障害をきたしました。医療機関受診時に高血糖(304 mg/dL)も認めており、糖尿病性ケトアシドーシスや脱水など酸化マグネシウム製剤の服用以外に高マグネシウム血症をきたす原因の存在が疑われたこと、治療に対する反応性が通常の高マグネシウム血症と比べて速やかであったことなどから、同製剤内服と高マグネシウム血症との因果関係は不明です。

このように、さまざまな情報を検討した結果、高マグネシウム血症の患者さんは、ほとんどが成人、特にご高齢の基礎疾患のある方でした。今後もさらに情報の収集を続ける必要があると思われますが、小児慢性便秘症診療ガイドライン作成委員会の見解としては、「便秘のほかに基礎疾患や原因がなく、小児の一般的な用法・用量にしたがって酸化マグネシウム製剤を服用している患者さんでは、酸化マグネシウム製剤の服用によって危険なレベルの高マグネシウム血症がおこることは極めてまれなことであり、便秘症に対して有効性がみとめられている場合には、一般的に有益性をうわまわる危険性があるとは考えられない」という結論にいたりました。

ただし、表1のような高マグネシウム血症のリスク因子がある方では、酸化マグネシウム製剤服用により血中マグネシウム濃度が異常に上昇することがあると考えられ、小児でも同様、十分に注意する必要があると思われます。

表1 高マグネシウム血症のリスク因子

  • 急性腎不全/慢性腎不全
  • 心疾患
  • ショック
  • 広範な熱傷
  • 消化管における炎症、出血、潰瘍
  • 腸閉塞
  • 消化管寄生虫疾患
  • 糖尿病性ケトアシドーシス
  • 脱水
  • 横紋筋融解症
  • 腫瘍崩壊症候群
  • リチウム中毒
  • その他の内分泌疾患
    甲状腺機能低下症
    家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症
    低アルドステロン症
    副甲状腺機能亢進症
    副腎不全 など

メモ

血清マグネシウムの基準値は1.5〜2 mEq/Lである。症状が出始めるのは3.5 mEq/L以上である。体内のマグネシウムは60〜70%が骨組織に、30%が筋肉・肝臓など軟部組織に分布し、細胞外液中には約1%しか存在しない。体内のマグネシウムバランスは、主に腎の尿細管で調節されており、通常、腎機能に問題がなければ、高マグネシウム血症は起こりにくいとされている。高マグネシウム血症の初期症状として、頭痛、悪心・嘔吐、起立性低血圧、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠、全身倦怠感、無気力、腱反射の減弱など、10 mEq/L以上では、心電図異常(PR、QT延長など)、呼吸筋麻痺、四肢麻痺、昏睡、心停止などの重篤な転帰をたどることがある。

以下に、小児のマグネシウム製剤に関する高マグネシウム血症についての論文とその要旨をまとめました。

参考文献

  1. Kutsal E, Aydemir C, Eldes N, Demirel F, Polat R, Taspnar O, Kulah E. Severe hypermagnesemia as a result of excessive cathartic ingestion in a child without renal failure. Pediatr Emerg Care 23:570-2, 2007.

    14歳の女児。便秘に対し水酸化マグネシウム(Magnesia Calcinee:投与量はabstractに記載なし)を7日間内服後に傾眠、低血圧(70/40 mmHg)で受診した。血清Mg濃度は14.9 mg/dlであった。ECGでQT時間の延長とI度房室ブロックを認めた。腎不全はなかった。対症療法と血液透析で改善した。重症の便秘・イレウスの状態で大量のマグネシウムが経口投与されると、腎機能障害がなくても高マグネシウム血症をきたす可能性が示唆された。

  2. McGuire JK, Kulkarni MS, Baden HP. Fatal hypermagnesemia in a child treated with megavitamin/megamineral therapy. Pediatrics 105:E18, 2000.

    28ヶ月の男児。脳性麻痺、てんかん、便秘に対し、医師以外から大量ビタミン・ミネラル療法を指示され、1日800 mgの酸化マグネシウムを投与されていた。便秘の改善がないため母親の判断で酸化マグネシウム1日2400 mgに増量されていた。入院2日前から傾眠傾向となり、心肺停止状態で搬送された。蘇生後の血清Mg濃度は 20.3 mg/dlであった。本エピソードの前の腎機能は正常であった。

  3. Nordt SP, Chen J, Clark RF. Severe hypermagnesemia after enteral administration of Epsom salts. Am J Health Syst Pharm 68:1384-5, 2011.

    11歳の男児。頭蓋手根足根骨ジストロフィー。慢性便秘に対し、母が22 gの硫酸マグネシウム(Epsom salts)を胃管から投与した。嘔気・嘔吐、傾眠、深部腱反射消失、心電図異常(QT延長)を認め、人工換気を含めた集中治療を必要とした。血清Mg濃度の最高値は13.8 meq/L (16.6 mg/dL)であった。BUNの軽度上昇(21 mg/dL)を認めたが、腎機能障害はなかった(Cr 0.8 mg/dL)。内科的治療により、後遺症なく改善した。

  4. Tatsuki M, Miyazawa R, Tomomasa T, Ishige T, Nakazawa T, Arakawa H. Serum magnesium concentration in children with functional constipation treated with magnesium oxide. World J Gastroenterol 17:779-83, 2011.

    酸化マグネシウム製剤服用中の慢性機能性便秘症児120名の血清Mg値と尿中Mg値を測定した。便秘治療群での血清Mg値は、対照群に比べ軽度上昇し(2.4 mg/dL vs. 2.2 mg/dL)、尿中Mg/Cr比も有意に上昇していた。年齢と血清Mg値は弱い逆相関を認めたが、マグネシウム製剤投与量および投与期間との相関を認めなかった。

資料

  1. 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン 第11章 維持療法III.薬物療法
  2. 酸化マグネシウムの「使用上の注意」の改訂について
  3. 酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い
  4. 高マグネシウム血症症例(マグミットR細粒83%添付文書より引用)
  5. 酸化マグネシウム製剤の副作用報告死亡事例への緊急提言
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